16 カーン◆saQT
3時6分。スタンドの異変に気付いた審判が試合を止める。そして、ようやく扉が開けられ、強い圧迫を受けていたテラスの人々が次々にピッチへと降ろされる。選手たちも、呆然と事態を見つめながらロッカールームへと引き返した。

 残されたのは、白目をむいた人々の山。女性や子供はもちろん、頑強な体躯をした男性もフェンスの裏側で倒れていた。

 元気な人々が手分けをして倒れた人々をピッチへ運び出すが、医者も全く足りない状態。何をしたらよいのか分からずに佇む人の目は、完全に戦場を見つめるものと変わりなかった。広告シ板を担架代わりにして必シに犠牲者を運び続けるものの、目の前の人が生きているのかシんでいるのも分からない。家族や友人が息絶えているのを見て、泣き叫ぶだけとなる人の姿も決して少なくはなかった。

 救急車の到着は遅かった。医療スタッフもなかなかやって来なかった。
スチュワードと警察のコミニュケーション不足から、惨事の大きさが正しく把握されていなかったのだ。ゴール裏の扉を開けることで試合開始が遅れることを気にして、迅速な処置を怠ったのは、非常事態であることを正確に伝えていなかったため。運営体制に落ち度があったのは明らかであった。
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