17 カーン◆saQT
 その上、救急体制の不備も犠牲者を増やす要因となった。多くの救急車が早く到着し、沢山の医者が駆けつけていたならば、救えた命も数多くあったと言う。

 しかし、余りにも多過ぎる犠牲者。手を施せるのかどうかを、見極めることさえ困難な状態となっていた。

 結局、その場で帰らぬ人となった者たちに加え、病院などで息を引き取った者は合わせて95人に及んだ。怪我人の中には内臓の破裂により大手術を受けた者から、フェンスで指を失った者もおり、医療関係者に手当てを受けた者だけで200名を超えていた。

 狭いテラスに収容不可能なほどの人が殺到したことで起こされた惨劇。これはチケットの割り当てに原因があった。リバプール側に用意されたチケットは、2万4000枚。一方、ノッティンガム側へは3万枚ものチケットが回されていた。当時の平均観客動員は、リバプールが4万超だったのに対して、ノッティンガムは2万弱。これでは、需要と供給に大きな差が生まれて当然。

 ノッティンガム側でチケットが余ったことから、リバプールへと流れたチケットが多かったことに加え、ノッティンガム側のチケットでリバプールのスタンドに入っていた人もいたことが、混乱に拍車をかけた。

 とはいえ、未曾有の惨事を誘発した最大の要因は、テラスで起こっている事態を的確につかめず、対応が遅れたこと。サンデー・タイムズ紙はヒルズボロの悲劇を「人災」であったと断罪し、観客の安全を最優先に考えなかったことが多くの犠牲を生んだと非難した。
(PC)