薔薇の頬

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sakutaro
女の作品
それは、彼女の産んだ子供たちだ。
それ以外のものは信用ならない。
sakutaro
旧約
男の体格は女を抱く為に胸板厚く手は長く造られている。

女の肩は丸く手も短く造られている。
赤子を抱くには、それで充分なのであろう。
sakutaro
間諜
おれは、金で魂を売った。
実に悩ましい。
先生、知恵を貸して下さい。

選ばれた男はそう言った。
五年弱の膨大な失政を隠す為に。
これ以上、失いようは無い。

大きな劇場の椅子に男は一人で座っていた。
sakutaro
歳晩のメロディ
国家というものが国民を蝕んでいる。
それが、国民を保護する装置であった例は稀有である事を今までの歴史が証明する。

私は襤褸をまとい角笛を吹く。それは決して録音され無い。森の奥に木魂する。

私はその曲の題名を、『人類が絶滅せぬ為の奇想曲』と名付けた。
sakutaro
虫歯
冬に入ると何故か虫歯が痛む。治療する。そうすると又、横の歯が重荷を降ろしたように取れる。それを繰り返していくと本当に自分の歯はどれなのか判らなくなる。仮に私が飛行機事故で死亡したとする。

この歯医者のカルテが私自身を証明する。
生きる為の医者通いの資料が私の肉体の死を確認する。

私はすっかり冬木立になった道を失った歯の事を考えながら帰宅する。

もうすぐに、クリスマスや、お正月である。毎年、そういう事をしながら年が暮れる。少しづつ歯を失いながら少しづつ老いていく。ふっと、私は自分の死体を見たような気がした。
sakutaro
孤愁の岸
秋出水引かぬまことの震災忌。思ひ出や八朔の尽きて野分の里に佇めば亡き人しのぶ夕月夜。花野には七草の咲くをみなへし。また、をとこへし。刈萱の丘に登れば葛の花また藤袴。こほろぎの鳴くふる里は今は無き。草雲雀揚がる明日の野辺送り。ああ、かねたヽき。天下を見たる秋の潮ふき上げる、立待月に成るばかりぞ。明日の雨月となりにけるかも。
sakutaro
挽歌
愛すれど心ならずも赤のまヽ。しらぬひの耀きてあり有明けの人知れず咲く稲の花。欝金の花に染められた窓明り。絶えて無し、芭蕉も印度支那の戦乱にあけくれて。溝蕎麦すヽるあぜ道にアメリカ兵の懸け煙草は流れけり。煙をあびるカンナ燃ゆ、また、水引き草を抜き金品を与。与謝の海、天の橋立ながめればころころと鳴る小豆かな。あヽ六斎念仏を唱える地蔵盆、秋遍路の支度にモナリザも秋暑し。ルーヴル宮の中に秋薔薇咲にけるかな。
sakutaro
パステル画
茨の花の咲く頃に出会ひ麦の笛を吹いて遊び、杜若の日々は帰へらず。短い夜は明け蜜柑の花を与へたし、鈴蘭の髪飾り。梅雨の頃はジュネーヴへ。帰国すると夏木立。昼がほに木苺。滕椅子の二人。雲の峰は眩しくパラソルを振るあなた。紺色のハンカチを出す、ふんすゐは高く夕立のやうに。メロン切つて食べながら見た夏芝居たち。金魚玉は透きとほるラムネ色に、蝉しぐれ激しくて肌脱ひだまぼろし。向日葵の子よ、初盆の地震によみがへる幻よ。嗚呼、何故にかくもむなし。昼花火して別れし、ながれ星のやうに