40
マンションのロビーでエレベーターを待っていた。彼氏の家を深夜12時頃出て、車で送って貰ってきたところだ。エレベーターの扉が開いた。どきっとした。女の人が乗っていた。五十歳くらいだろうか。蝠wのようだ。両手を自分の前で重ねたようにして、うつむいて立っている。どきっとしたのは、その人が、入り口に背を向けていたからだ。ガラス張りで外の見えるエレベーターならいざ知らず、こんな小さなマンションの、五人も乗ったら窮屈な感じのするこのエレベーターに、一人で壁の方を向いて乗っているなんて。рヘ乗るのをためらった。だが、その後ろ姿からは攻撃的な感じは見受けられないと判断した私は、エレベーターに乗ることにした。さりげなく乗り込んでドアを閉め、4階のボタンを押して、あれっと思った。どこの階のボタンも押されていなかったのだ。住人ではないのだろうか。エレベーターの操作がわからない?何階に行くのか聞いてみようか、だが…そんなことを考えている間もその婦人は少しも動かないままで、声をかけることができないまま4階についてしまった。一緒におりてきたらどうしよう、と思ったが、ドアが閉まる音が背後にしただけで、その人が動いた様qはまったく感じられなかった。風呂に入り、冷蔵庫をあけると、風呂上がりには欠かせないいつもの牛乳がきらしていることに気づいた。マンションの近くにコンビニがある。夜中に出向くことも珍しくない。ドアに鍵をかけてエレベーターに向かった。エレベーターは4階にあったので、下向きの矢印ボタンを押したらすぐに扉が開いた。ぎょっとした。先程の女の人が、まだ同じ姿勢のまま乗っていたのだ。恐い、と感じた。今度は乗れない、と思った。私はその人が振り向いたりしない事を祈りながら階段のほうへ向かった…。