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本・「天命の陳情」の紹介!
2012年08月28日 天命の陳情 〜書評(179)〜著者 村岡伸治
ジャンル ノンフィクション
天命と言うことばは、使うひとを選ぶ。仮にわしが「天命」と口にしたところで、どうにも嘘臭いったらありゃしない。
本書は違う。少なくとも、著者には天命がすぐそこに見えている。著者の天命は陳情を行うこと。
痛ましい墜落事故を起こしたジャンボに乗り続けたパイロットであるからこそ気づいた真実を、事故調査委員会に伝えることを。いいも悪いも損も得も越えて、とにかく訴えることを天命として。
だからだろうか、本書からは魂の叫びがひしひしと伝わってくる。
今から27年前の夏、とある山奥に一機のジャンボ機が墜落した。生存者わずかに4名。坂本九さんが亡くなったことは今でも記憶に新しい。
そう、日航機の御巣鷹山墜落事故である。
あの悲壮感のあるレコーダーのクルーの台詞、現場写真、数々の遺書、遺品、遺族の声は、我々以上の世代の人間ならば何度なく見て聴いたであろう。
事故の原因は、修理ミスに端を発した機の破損とされている。が、果たしてそれは真実であるのか。著者は事故当初より、同型機に搭乗していた経験則から、異なる真実を感じ取っていた。
すなわち、手荷物として持ち込まれた爆発物の遠隔爆破による油圧系統の破壊と、それに伴う操縦不能である、と。
本書は事故調査委員会への私見、意見書、陳情を再録したものであり、パイロットならではの詳しい分析が、文章として連ねられている。
その中身を説明出来ない素人であるのが歯痒いが、私はそこに著者の魂の声を聴いた。痛いほど伝わった。
哀しいことに、本書が事実であるのかどうか私には判断がつかない。論証に素直に説得力を感じるけれども、それ以上のことが言えない。著者さんには申し訳なく感じる。
実は、本書は著者さんのご厚意により譲っていただいた一冊である。本来は航空機の専門家が読むべき作品であるのに、ど素人が己の探求心で分けていただいたのが、良かったのか悪かったのか、読んで一層想いが深くなる。
著者さんより、読み終わったら図書館に寄贈をと一文が添えられていた。
どうすれば寄贈できるのか未知のことで分からないが、ご意向に添いたいと思う。
これは、広く多く、空の安全に関心を持つひとに読んで欲しい作品であるからだ。